■13416 / blue/white  
□投稿者/ 鳥子 (2005/10/19(Wed) 10:39:24) 

いつも、いつも思ってる。 ユキちゃんが私を愛してくれたら…。と。 恋をしたのはいつの事だったか。 毎日学校で元気よくクルクル動き回るユキちゃん。ユキちゃん。 私の、ユキちゃん。 慎ましい女子高の私の右斜め前の席。 授業中とても鋭い目線を黒板に投げて、顔を伏せてはノートに書き込むユキちゃん。 長くてサラサラとこぼれる髪を耳にかけるのをよく目にする。 うっとおしいのかな。髪の毛、結わいてあげたいな。 ブラシで丁寧に梳いて、ユキちゃんの髪を…。 くちづけたい。ユキちゃんの長い髪をすくって、匂いを一杯に吸い込んで。 ユキちゃんの髪にくちづけたい。そして、抱きしめたい。 私は胃の辺りがキュゥッとくすぐったくなるのを感じていた。 もどかしいような、切ないような、涙が溢れそうな感情が体中を駆け巡る。 「シマコちゃんったら、また目をつむってる」 桜が風に舞うような声に我に返ると、目の前にはユキちゃんがいた。 中腰の姿勢をして、椅子に座る私と同じくらいの目線をとって、ユキちゃんは微笑んでいた。 「あれっ…授業」 ユキちゃんは授業を放り出して適当な行動をする子ではないから、 私がその状況に驚いて目を丸くするとユキちゃんは少し困ったような顔をして、 「授業なら今さっき終わったじゃない」と言った。 「シマコちゃん、最近よく目をつむっているけど、あれは寝ているの?」 ああ…ユキちゃんは気付いてる。私がよく目をつむっていること。
■13417 / blue/white 2 □投稿者/ 鳥子 (2005/10/19(Wed) 10:40:41) 「あはは。バレちゃった?最近夜更かししちゃって眠たくて」 私は咄嗟に嘘を吐いた。ごめんね、ユキちゃん、今私が嘘を吐いたことと、それから…。 「あれ、なんかミサちゃんが呼んでるみたい。ちょっと行くね」 クルリと後ろを向いて歩き出そうとするユキちゃんの腕を、私は反射的に掴んでしまった。 「? どうしたの?」 私は不思議そうに振り向いたユキちゃんの顔を見てから、ユキちゃんの肩口を軽く叩いた。 「肩にホコリ、ついてた」 また嘘を、吐いた。 「あは、ありがと」 ユキちゃんは笑って、ミサちゃんのいる方へ歩き出した。 私はため息をついた。 本当は、行かないでって掴んだんだ。 本当はあのままユキちゃんを引き寄せて抱きしめたかったんだ。 ユキちゃんが、ユキちゃんが、私を愛してくれたら…。 目をつむると無音の世界に沢山の人並みが見える。 その真ん中にユキちゃんは立っていて、少し意地悪そうに笑ってこう言うんだ。 「シマコちゃんは、私の事が好きなんでしょ」 無音の世界に響いたその声は心に突き刺さるくらいクリアーで。 ユキちゃんはマリリン・モンローみたいに妖しい足取りで私に近付いてくる。 セーラー服のタイをほどきながら。目線は私だけを捉えて離さないままに。 私の傍までやって来て私の首に腕を絡みつかせて私の耳元でもう一度言うんだ。 「私の事が好き、なんでしょ」 私はそこで意識を失った。 引用返信/返信 削除キー/ 編集削除 ■13418 / inTopicNo.3)  blue/white 3 ▲▼■ □投稿者/ 鳥子 一般♪(3回)-(2005/10/19(Wed) 10:42:09) 私がまた目を開くと、そこには区切られたカーテンレールとそこからぶら下がって そよそよと風に揺れる薄いグリーンのカーテンが見えた。 「先生〜私お腹痛くて〜。ベッドで寝てたいの〜」 「お腹痛いなんて笑顔で言うもんじゃないの。仮病さんは寝かせないわよっ。今他にもベッド使ってる子いるんだから」 女の子の声と、大人の女性の声。 (ここ…保健室か…) 私はようやくそれを自覚し、まぶたをこすった。 「失礼します。先生、シマコちゃんまだ起きませんか?」 カーテンの外から少し離れた方から、また違う声が聞こえた。 私はそれがユキちゃんの声であることがすぐにわかった。 「うーん、貧血起こしてそのまま眠っちゃったみたいでなかなか目が覚めないのよ。  それにしても、座ったまま貧血起こすなんて珍しいわよね。もう平気だろうし、起こしてあげてくれる?」 ユキちゃんがその返事をする間もなく、保健室の扉が開く音がした。 「センセーッ!リカちゃんが階段踏み外して落ちちゃった!痛くて動けないって!早く来て!!」 緊迫した生徒の声と、 「わかったわ。それじゃユキさんお願いね」という先生の声、 それから慌しく閉まる保健室の扉の音がすると、嵐の去った後のような静けさが訪れた。 それは耳鳴りがする程の、静けさ。 少し間を置いてから、上履きのゴム底と床の擦れる音が少しずつこちらへ近づいてくる。 なぜだか私は慌てて目を閉じた。 そっとカーテンが開く音が私の心臓を締め付ける。 ユキちゃんはどんな顔をして私を見ているのだろう。 私の名はなかなか呼ばれない。 できるなら早くこの緊張から開放されたいのに。 心配になった。 時が止まっているみたいで、それでいて私の心臓だけが、まるで寿命を縮めようとするみたいにすごい強さで早鐘を打つのだ。
■13419 / inTopicNo.4)  blue/white 4 □投稿者/ 鳥子 一般♪(4回)-(2005/10/19(Wed) 10:43:39) 時の感覚がわからない状態の中で、何か柔らかいものが私の頬に触れた。 その感触は、まるで優しい恋のような。 そして温かい手が私の髪を撫でる。 一体何が起きているというのだろうか。 これは、現実なのか。 それとも私の妄想なのか。 私の体の芯から一瞬にして体中に熱が放出されるような感覚に支配され、 私は思わず閉じていたまぶたを思い切り開いた。 ユキちゃんは大げさすぎる位の勢いで後ろずさり、両手で口を隠すように覆った。 その目は今にも泣き出してしまいそうな。 「ユキちゃぁん…?」 重たい空気の中私はなんだか間の抜けた声でユキちゃんの名前しか呼べなかった。 「シマコちゃ…違うの。わたし、あの…」 ユキちゃんは声を震わせながら必死に弁解をしようとしていた。 その姿はまるで裁判にかけられた気の弱い容疑者みたいで、私は(ユキちゃん可哀想だなぁ)なんて能天気な事を考えていた。 きっと私、今頭がちゃんと働いてない。 妙な沈黙を破ったのは結局ユキちゃんでも私でもなく、やかましく開いた扉の音だった。 「行こう、ユキちゃん」 今のユキちゃんと私の姿を誰にも見られたくなくて 私は我を失ったように突っ立っているユキちゃんの手を引っつかんで、開いた扉とは反対にある扉から保健室を駆けて出た。 そのまま廊下を走って、走って、何かから逃げるみたいに走って。 そうしたらユキちゃんはもっと早く走り出して、今度はユキちゃんが私を引っ張っていく形になった。 ユキちゃんは授業中にしてるみたいな鋭い目をしていた。 いつもなら黒板に投げる目線は今一体どこにあるのだろう。 そのまま教室の脇を駆け抜けて、職員室脇も駆け抜けて玄関も駆け抜けて。 二人とも上履きのままで校庭も駆け抜けて。 私は突然猛ダッシュを続けて上がる息にそろそろ耐え兼ねてしまいそうだ。 それなのにまだまだ、どこへでもユキちゃんは走って行くような勢い。 その瞬間私は奇妙な感覚に包まれた。 まるで、私たち、飛んでるみたい。 二人で手を繋いで、遠く遠くを目指して、飛んでいるみたい。 それはとても幸せな感覚なのに体は悲鳴を上げていて、訳のわからない感動と苦しさに私は大声をあげていた。
■13420 / inTopicNo.5)  blue/white 5 □投稿者/ 鳥子 一般♪(6回)-(2005/10/19(Wed) 10:44:39) するとユキちゃんは少し走る速度を緩めて、そのかわりみたいに大声で笑い出した。 私は走るのをやめて、今度は大声で泣き出してしまった。 ユキちゃんは苦しそうに笑いを堪えながらその場に座り込んだ。 「あはははっ…ふふっ。ごっ、ごめんね…シマッ、シ、シマコちゃん…」 ユキちゃんは立ち尽くして泣いている私の手を取って軽く引っ張って私にも座るように促した。 「うぇぇ…ユキちゃんのバカァ…なんだよこれー…っく、訳わかんないよー…」 私が言うとユキちゃんは「本当にね」と言って困ったように笑った。 「それにしても私授業サボるのなんて初めて!」 そして今度は爽快な程に笑った。 「…私もだよ」 なんだかいつものユキちゃんとはイメージというか雰囲気というかが違って、正直少し戸惑ってしまう。 泣き止んで正面を見てみると私たちは校庭を見下ろすような位置にいた。 砂が太陽に反射して眩しい。 がむしゃらに走ってて気付かなかったが、私たちがいるのは学校の裏山だということが確認できた。 腕時計に目をやると、やっぱりもう授業は始まっている時間だ。 それを抜け出してこんな風に校庭を見下ろして。 空の青も木々の緑もなんだか空気までもが違う世界にいるみたいに感じる。 「シマコちゃん、私ね、シマコちゃんのことずーーーーっと気になってたんだぁ」 ユキちゃんがまっすぐ校庭の方を見ながら、ボソリとそう言った。 「さっきも保健室でのこと、ごめんね」 私は横に座っているユキちゃんの顔を見る。 「これって、なんなんだろうね。この気持ち。好き…なのかな」 そこまで言うとユキちゃんは目線を変えないままに表情だけどんどん曇らせてしまう。 私はそんなユキちゃんの横顔を、とても美しいと思った。 この世の中でも二つとない、私の大切なものだと、思った。 私はその頬にそっと近づいてくちづけをした。
■13421 / inTopicNo.6)  blue/white 6 □投稿者/ 鳥子 一般♪(7回)-(2005/10/19(Wed) 10:45:43) その間、ユキちゃんはピクリとも動かず、私が唇を離してもなお、何もなかったように目線一つ動かさないでいた。 私も黙って、ユキちゃんと同じ方向を眺めてみる。 空の奥の、奥のほうに、大きな積乱雲が見える。 まるで特大サイズの綿菓子が青空を乗っ取る為に手を伸ばしているようだ。 「雷が鳴って、雨がザーザー降るかもしれないね」 ユキちゃんは穏やかな表情でそう言った。 「そうだね。雷が鳴って、雨がザーザー降るかもしれないね」 私はユキちゃんの言葉を呪文みたいに繰り返してから、そっとユキちゃんに寄り添った。 「私、雷が鳴って雨がザーザー降っても、このままシマコちゃんと居たい」 そう言うと、ユキちゃんは静かな動作で顔を手で覆った。 今日は、雨が降る。そう思った。 だって、ユキちゃんが泣いているもの。 ユキちゃんが、泣いているもの。 私はユキちゃんの横顔を隠す髪を少しすくって、それに唇を寄せて、ユキちゃんの体を抱き締めた。 目をつむっても、いつものような人並みも、私が造り上げたユキちゃんも現れはしなかった。 ただ、ユキちゃんの香りと体温で胸が一杯になることだけしかわからなかった。 私は、心が満ちるのを感じていた。 しばらくそうしてから、私たちはどちらともなく立ち上がって学校へ戻った。 二人微笑んで、手を繋いだままゆっくりと。 「雷が鳴って、雨がザーザー降っても、いっしょにいよう…どんな苦しいことがあっても、いっしょに…」
完 面白かったらクリックしてね♪ Back PC版|携帯版